お嬢様重奏曲!R
 葵の相談とは返却するのを忘れてしまったフリーダムハーツと、あの時勝手に持ち出してしまったフリーダムハーツを返したいので、一緒に来てほしいと言うものだった。
「やれやれ。面倒が続くものだね」
 先の方で学園が見え始めた。そして校門のところで人影が一つ見えた。
 人影の前までやってきた御言は、一度呼吸を整える。
「どうやら待たせてしまったようだね? 天童君」
 人影の招待は葵だった。しかも制服姿である。あれから律儀に着替えたのだろう。ちなみに御言は当然私服である。
「いえ。私もさっき着いたばかりですから」
「それは良かった。では入ろうか」
「ですが校門は」
「誰が正面から入ると言ったかね? 裏門から入るのだよ」
 御言は先を歩き裏門へと向かう。
 裏門に到着するとポケットから、鍵を取り出した。そしてその鍵で裏門を開ける。
「どうして御影さんが裏門の鍵を?」
「君がそれを気にする必要は無い。さあ中へ入るぞ」
「あ、はい」
 夜の学校は静寂に包まれており、自分たちの足音がおおげさに大きく聞こえてしまう。
「…夜の学校って怖いですね? 御影さんは平気なんですか?」
「まあな。君よりは免疫はあるだろう。さて見回りに見つかると面倒だ。さっさと済ませようか」
「は、はい」
 先を行く御言の服の端を、葵が掴みながら歩く形となっていた。
「なんか出そうな雰囲気ですね?」
「安心したまえ。もう出る事は無いだろう」
「そうですよね? もう出ませんよね」
 と言ってから、服を掴む力がいっそう強くなった。
「今の言い方じゃ、まるで今まで出てたみたいじゃないですか」
「……………」
 葵の問い掛けに御言は答え無かった。
「御影さん? 返事をしてください! どうしてそこで黙っちゃうんですか!」
「天童君。こんな言葉を知ってるかね? 気にしたら負けだ」
「それ、答えになってませんよ!」
「人間、知らない方が良い時もある。それが今だよ、天童君」
 それだけを言い残し、御言は先ほどよりも歩く速さを速めたのだった。
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