ディーダラス2064
2044年の年末はあわただしかった。
西海岸でも初雪を11月中旬に観測した週明けの月曜

カオルの生活しているトレーナーズラボと名づけられた集合住宅に一通のメールが届いた。
カオルにとって数週間前のWSCからの連絡通知にさらに踏み込んだ任務参加依頼の書類だった。

カオルにはその書類に書かれた地球軌道出発は今後一週間以内という唐突な条件は受け入れがたいものだった、
しかしカオルにとって大きなチャンスとしての意味合いも含まれていた。

カオルはその朝メールを受け取った足で、その日の午後にはある場所にビーグルを飛ばしていた。

彼女に関しての情報は、ごく限られていた
ミディというファーストネーム
最近ムービーコンテンツで人気の女優のラニアート キャンベルンにどことなく似ている哀愁の含んだ笑顔
そして彼女の暮らす、ログハウス調のアンティークな趣味のいいアパートの住所…



会いたかった
ただひたすらそのことばかり考えていた

自分がもう一週間しかこの地上で暮らせないこと

余りにも自分勝手で身勝手な対応について
洗いざらい事実を公表して詫びるつもりだった。



そして別れもそれと同時に告げるつもりだった。


秋の深まりの割にしても、季節柄やや早いようなそんな雪のちらつくその日
午後を大分まわって彼女と一日ともにした彼女のアパートに到着したとき雪は完全にやんでいた。

カオルはダークブルーのジャケットでキメタそのスリムなボディをくねらせビーグルを降りると
彼女ミディの寝室らしい部屋の前に立ちすくんだ

平屋で、辺りは広いスペースで駐車場になっている
ただここから道路を挟むと海が見渡せる

この季節の海は正直すがすがしいものでもなく
けれどミディがこの場所をとても気に入っていたのは知っていた

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