-恐怖夜話-
空耳などであるはずがない。
クスクスと笑いを含んだ、かすれた声に宿る、禍々しいほどの邪気。
ここに、居る。
見えない、声の主は、
今、この部屋の中にいるのだ。
闇の中で、私は救いを求めるように、
同じように体を震わせる香の小柄な体にしがみついた。
「や、山吹先生……」
香が、恐怖にかすれた声を絞り出す。
「市川先生……、で、出よ――」
支え合うように二人でどうにかソファーから立ち上がり、ドアの方へ一歩、二歩とおぼつかない足を進める。
が、
がくんと私たちは動きを止めた。
ううん、止められた。
足、
私の、右足首を、
誰かが、がっちりと、つかんでいる。