-恐怖夜話-
「行って来まーす」
家の外に出ると思ったよりもう随分薄暗くなっていて、通り雨の名残の水たまりと、むっとするような土の匂いが立ちこめている。
ねっとりと体に絡みつく熱気と湿気が、とても気持ちが悪かった。
「シロー。散歩に行くよー」
庭の端にある犬小屋では、私が近付いてくるのを察知したシロが、尻尾をちぎれんばかりに振りたくって地団駄を踏んでいる。
くぅんくぅん!
と、嬉しそうに鼻を鳴らした。
シロは名前の通り、白い毛並みのメスの秋田犬だ。
既に成犬で、体長も50センチを超える大きさがある。大型犬なので、慣れない人間は恐怖を感じる大きさかもしれない。
でも、扱い慣れた私には、可愛い飼い犬だ。
「ほらシロ、ヒモ付けるよ」
喜びの余り、ぴょんぴょんと跳ね回るシロの首輪の金具に、引き綱を繋ぐ。
ワオン!
シロが、真っ黒な瞳をキラキラと輝かせながら、嬉しそうに一吠えした。