-恐怖夜話-

七月上旬の日曜日。


その日は、朝からとても暑い日だった。


盛夏を思わせる太陽の強い光がアスファルトをじりじりと焼きつけ、見るもの全てをゆらゆらと揺らす。


遠くでは、気の早いアブラゼミが忙しなく鳴いていた。


湿気を含んだ蒸れた空気が体中にまとわりついて、全身に汗を噴き出させる。


そんな昼下がり。


「うわぁ、なんだかボロっちーね、このアパート」


私、坂田美鈴は、汗で滑りそうになる両手の大荷物を抱えなおしながら、新居アパートの玄関ポーチで建物全体を仰ぎ見た。


視線の先には、大分年季が入った、見るからにボロい集合住宅がそびえ立っている。


元はアイボリーだったのだろう。


モルタルの壁は薄茶色にすすけていて、所々細かいひび割れが黒い蜘蛛の巣状に走っていた。


サッシも、アルミ色のシンプルなもので、洒落っ気の欠片もない。

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