-恐怖夜話-
駅で自宅へ電話を掛けたとき私には何も聞こえなかったけど、電話を受けた兄の方ではちゃんと聞こえていて、私の態度を不審に思った。
それで心配になって車で様子を見に来てくれたのだそうだ。
家に帰ってすりむいた膝小僧や肘の手当をしながら、『転んで気を失っている間にこんな夢を見たのよ』と言って私が少しおどけて先刻の『怖い夢』の話をすると、母も兄も『なにそれー!』と笑ってくれた。
その笑顔を見て、やっとあの出来事が夢だったと思えた。
でも――。
「な、なに、これっ!?」
私の傍らで、被害甚大な私のコートの手入れをしていた母が上げた怯えを含んだ声が、そんな私の甘い考えを見事に打ち砕いてくれた。
「こっ、これ、見て……」
震える声と共に母が差し出した、私のコートの右側の裾。
そこには、他のものとは見間違えようのない『黒い小さな子供の手形』が、くっきりと残っていた。