-恐怖夜話-
――パタン。
軽い音を響かせて、ドアが開く。
そして一瞬漂う、鼻を突く異臭――。
何、この匂い……。
私は思わず息を詰めた。
「あら。何か臭うわね?」
年の功か、オバタリアンの性(さが)か、店員さんをはばかって、その匂いのことを口に出さなかった私とは対象的に、母が大きすぎる呟きを漏らした。
「ああ。これはアルコールの匂いですね。
一応クリーニングしますので、その時に消毒に使ったアルコールが残っていたんでしょう。
何、すぐにこの匂いは消えてしまいますよ」
「あら、そうなの?」
母が冷蔵庫に顔を近づけて、くんくんと鼻を鳴らす。