-恐怖夜話-


「え……?」


こんな深夜に、それも人気など皆無の農道で聞こえるはずがない、あまりに状況にそぐわないその『音』。


聞き違いかと思って、俺は耳をそばだてた。


こつ、こつ、こつと、


凍てつく空気を振るわせて闇に響く硬質の音は、やはり、靴音に聞こえる。


そう、昔、サラリーマン時代に良く聞いた音。


革靴。


それも、女性のハイヒールがアスファルトを歩く時に発する、あの独特な靴音に間違いない。


ぐるりと、周囲を見渡した視線の端に、『ちらり』と、何かが引っかかる。


前方だ。


車のヘットライトに照らされた前方から、『女』が歩いて来る。

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