-恐怖夜話-
「田口さんっ!」
張り詰めた夜気を裂いて背後から飛んできたのは、寝ていたはずの、坂崎の叫び声だった。
「田口さんっ、早くっ!」
再び上がった声に俺の呪縛はほころび、じりっと、右足が後ずさった。
う、動く!?
そう思うや否や、俺は、踵を返して脱兎のごとく逃げだした。
すぐそこまで来ているはずの女には目もくれずに、一目散に車に駆け込み勢いよくドアを閉め、間髪を入れずそのまま急発進。
逃げろ!
逃げるんだ!
本能が命ずるまま、アクセルをベタ踏みし、スピードをぐんぐん上げていく。
思わずチラリと視線を走らせたバックミラーには、自動販売機の前にポツリと佇む白い人影が見えて、慌てて目を逸らした俺は更にアクセルを踏みこんだ。