恋*クル〜2nd〜
何も、なかった?
小首を傾げるあたしに、武人は冷静に話を続ける。
「だってそうだろ? おまえは全く記憶がなかったんだから。そういうのは、何もなかったのと一緒なんだよ」
「……だけど……」
反論しようとするあたしの口を、武人の大きな手が塞ぐ。
「もう、これで終わり。ここで終わりにしないと、堂堂巡りになるだけだ」
「―――っ……!」
あたしが何も言えないのは、口を塞がれているからじゃない。
いちばん傷ついているはずの武人が、あまりにも穏やかに笑っているからだ。
無言でコクコクと頷くと、それに同調するかのように涙がポロポロと零れ落ちる。
武人は、空いているもう片方の手で涙を拭ってくれた。