りんごあめみたいな
「あっ、ごめんね。私もう行かなきゃいけないからっ!」


時計を見ながら焦ったように立ち上がる小川さん。


教室を出ていこうとするその背中にあたしは言った。


『小川さんっ、ありがとう』


小川さんはあたしに向かって優しく笑うと視聴覚室を出ていく。


パタパタと走る上履きの足音。


ちょっと楽になった。


あたしも帰ろ。


そう思って教室に向かうと、教室の中から中島が出てきた。


「川上ーっ。どこにいたんだよー。探したんだぞ?」


『ごめんね。さっき。』

「いいよ、俺気にしてないし。」


頭掻きながら中島は少し笑う。


あたしは王子様にキスなんか求めない。


その笑顔見てたら、毒林檎の毒も溶けてく気がしたから。


『中島、ありがとう』


あたしは自分の鞄を持って帰ろうとした。


「あのさっ、今度お祭あるじゃん。一緒に行かない?」


バッと振り返ると中島が真直ぐこちらを見てた。

目を合わせられないからちょっと逸らす。


「小川と彼氏も一緒だけど」


付け足されたように言われた一言なのに。


あたしにとっても中島にとっても大事で重い一言に感じた。


ちょっと胸に引っ掛かるものがあったけど、どうせその日は暇だし、何より中島に誘われたんだから断るのはもったいない。


『行くーっ!』


わざと元気に返事した。
これ以上、中島や小川さんに心配かけられない。


「まじ?!じゃあさ…」


集合場所と時間を確認してあたしたちは別れた。

家路を歩いていると自然と顔がニヤけてしまう。

『えへへ』


1人で笑っちゃう。


楽しみなんだもん。


たとえ小川さんが来たとしても。


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