戦士たちの哀歌
戦士たちの哀歌
 蒸し暑い夜だった。

 誰がいつ考え出したのか──あの化け物たちとの死闘を繰り返すうち、こんな部隊が編成された。

 王国特務特攻精鋭部隊。
 それが、俺の所属するチームの名だ。

 俺が知る限り部隊の連中で、あの恐ろしい化け物に戦いを挑み、生還した奴はいない。

 どうやら、今夜は俺の番のようだ。

 俺は今、王国の湖の岸に立って、暴れる怪物どもに荒れ狂う水面を、静かに見つめていた。
 すでに戦闘は始まっている。
 湖岸に灯された幾つもの明かりが、夜の湖を真昼のように皓々と照らし出す。

 すぐ横では、無惨に引き裂かれた俺の仲間が湖から引き上げられ、死の報せを受けた幼い女の子が、彼の死体にすがりついて泣いていた。

 ふん、あいつはまだましなほうだ。

 仲間の中には湖の底深く沈んだまま、死体すら放っておかれる者だって少なくはない。
 湖の中では、何百という化け物の群が、俺たちを嘲笑うかのように蠢いている。

「仇はとってやるさ」

 呟き、俺は魔の湖へ──死の戦場へと飛び込んでいった。

 死の定められた特攻部隊?

 フン、上等だ!

 だったら俺が、生還者第一号になってやるよ。

 湖の水は、容赦なく俺の体力を奪ってゆく。
 俺たちの体を蝕み死へと誘う魔の液体だ。

 視界を、燃える炎のような色をした、巨大な影がよぎる。

 ──いた!
 
 俺は化け物に飛びかかり、その巨体にしがみついた。
 湖から引きずり出せば、俺の勝ちだ。

 長期戦は不利。短時間で決める!

 俺は浮上する。水面が近づく。
 ──勝った。
 そう思った瞬間。

 俺の体は、身をくねらせた怪物の鋭い尾によって、真っ二つに引き裂かれた。


「お母さーん、破れちゃったよぉー」
「残念だったねぼく。はい、一匹おまけであげるよ」
「あらあ、良かったわねえ、まーくん」

 俺の体を水の中に投げ捨てて、まーくんは嬉しそうに頷いた。



   了
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