Rainy-Rainy
−Shizuka−
まどろむ意識の中で、懐かしい事を思い出していた。
それは、もう七年も前、私がまだ小学生だった頃の事。
ある日、お母さんが知らない男の人を連れて帰ってきた。
背の高い、優しそうな男の人だった。
歳はお母さんより、少し若く見えた。
「おかーさん……このおにーちゃん、誰?」
それは当然の疑問。
だって全く、見た事もない人だったから。
そうしたら、お母さんは優しく私の頭を撫でて、落ち着いて聞きなさいと言った。
「この人はね、今日から静香のお父さんになる人なの」
「おとーさん…」
私は何となく、分かっていたんだと思う。
いくら幼いといっても、それくらいの知識はあったから。
きっとこの人は、お母さんの再婚相手なのだろうって事、本当は分かっていた。
ただ。
それを聞いた所で、私には少しも実感が湧かなかった。
だって、私は父親がどういうものか知らなかったから。
もちろん、知識としては理解していたけど。
千鶴や桂くんのお父さんを見ていたから、父親がどういうものかは分かっていた。
ただただ、実感だけが湧かなかった。
「よろしくね、静香ちゃん」
「………うん」
差し出された大きな手に、私も怖ず怖ずと小さな手を差し出した。
そうしたら、その人はぎゅっと力強く握ってくれた。
優しく、そっと包んでくれる大きな手だった。