Rainy-Rainy
「千鶴、ちゃんと言ってくれないと、さすがに出ていけないよ」

『むぅ……』


千鶴は唸って、しばらく逡巡した揚句、渋々と口を開いた。


『いや…今な、駅前で晶人さんと擦れ違うたんやけど』

「あぁ…」


それだけで、私にはピンと来た。

……そういう事か、と千鶴が言いたい事を悟る。


「お酒、飲んでたのね?」

『…ん、ああ』


以前にも、千鶴は何回かこうやって電話をくれた事がある。

その時も、晶人さんは酷く酒に酔っていた。


『なぁ、はよウチへ来た方がええって』


千鶴は焦っていた。

このまま迎えに行く、と言い兼ねないくらいに。


「大丈夫だから」

『何でよっ!?大丈夫な訳ないやんか!』


焦れたのだろう。

千鶴の語気が強くなった。


でも、私は折れてやる訳にはいかなかった。


「大丈夫だよ、千鶴。連絡してくれて、ありがとう」


私は目を閉じて、千鶴の顔を思い浮かべる。

きっと泣きそうな顔をしてるんだろうな。


「でもね、晶人さんが酔ってるなら、尚更家に居なきゃ。他に介抱出来る人いないんだから」

『な……何で?そんなんいらんよっ!あんな酷い人の事、静香が気に掛ける必要ない!』

「千鶴、晶人さんを悪く言わないで」


自然と私の声のトーンが低くなる。

電話の向こうで、千鶴が息を飲むのが聞こえた。


『っ…ご、ごめん。怒らんといて…静香。ウチ、そんなつもりやなくて…』

「あはは………大丈夫だよ。怒ってないよ」


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