Rainy-Rainy
−Chiduru & Kei−
ツーッ、ツーッ、ツーッ……ピッ。
通話の切れた携帯を握り締め、千鶴は悔しげに顔を歪めた。
「はぁ、静香……」
肩を落とし、うなだれる。
と、その一回り細くなった肩に、そっと桂の手が添えられた。
「振られたか」
「うるさい。笑うな、阿呆」
桂の手を払いのけ、千鶴は唇が白くなる程強く噛み締めた。
ブッと音を立て、流れ出た血が顎へと伝う。
「馬鹿、血が出てる」
そっと、桂の白くて長い指がその血を拭う。
熱くなった唇に触れる、ひんやりと冷たい感触に、千鶴は一瞬ドキッとした。
「……っ、触んな!」
のけ反るように桂から離れて、ゴシゴシとシャツの袖で口元を擦る。
触わられた感覚を消し去るように…。
鈍い痛みが広がったけれど、そんな事どうでも良い。
こんな痛み、静香に何もしてやれない悔しさに比べたら、何でも無い。
「……何で、なんもしてやれへんのや」
いつもそうだ。
静香は、いつだって千鶴達に何も望まない。
辛い時も、苦しい時も、一度も助けを求めてはくれない。
静香にはその権利があるというのに…。