Rainy-Rainy
「うぁっ……」

「このっ!」


顔を蹴られる、そう思って私は、反射的に顔をそらしていた。

おかげで、晶人さんの足が当たる事は無かったが、掠った右目の眼帯が宙を舞い、外れてしまう。


何も付けていない、私の素顔が露になった。


途端に、晶人さんの動きが止まる。


「あ……晶人さん」


晶人さんはその場に崩れるように膝を付き、震える手で私の傷だらけの顔に触れた。

そうして、真っ直ぐに私の顔を見つめる。


「み…水澄……水澄!!」


一転して、子供の様に屈託の無い笑顔で私の頭を抱きしめる。

べちゃりと、濡れたシャツが頬に張り付いた。


「あぁ……あぁ、水澄、水澄!」


腕の中の私に、病的なまでに頬を擦り付ける晶人さんは少し異様だった。

だが、晶人さんはそんな事気にならないのか、水澄と……お母さんの名前を繰り返し叫んで、私を抱きしめる。


そう。

今、晶人さんの瞳に映っているのは、私じゃなくてお母さんなのだ。


でも、嬉しい。

シャツ一枚の向こうに、晶人さんの体温を感じるから。

殴られた痛みなんて忘れてしまうくらいに、私の体を痺れる感覚が駆け抜ける。


「水澄……水澄、水澄」

「晶人さっ……んっ」


無理矢理唇を塞がれた。

晶人さんは濃厚に、執拗に、私ではない、私の中のお母さんの面影に口付けをする。


でも、嬉しい。

嬉しい。

晶人さん、嬉しいよ。


私を見てくれなくていいの。

見て貰えるなんて思ってないから。


私は貴方を感じられるなら、それだけで……。


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