Rainy-Rainy
「あっ…す、すいません」


同じお弁当を掴んだ事に気付いて、私は慌てて腕を引っ込めた。


「あ、いや……俺の方こそ」


男の人も私にワンテンポ遅れて、お弁当を掴んでいた腕を引く。


うわぁ……気まずい。

どうしよう?


いや、さっさと別のお弁当を選べばいいんだけど、相手の人も引いちゃったせいか、何となくそれもし辛い。


「あ、あの……どうぞ」


一応、譲ってみる。


相手は、大学生くらいの人だろうか?

私よりは少し年上に見えるけど。

少し赤みの掛かった茶髪で、見た目がちょっと怖い人だ。


「あ……いや、俺は。あんたこそ……あ」


一瞬、その人が私をチラリと見た。


かと思ったら、直ぐにもう一度、今度は深く覗き込む様に顔を合わされた。


な……何事だろう?

よく分からないけど、男は酷く驚いたように切れ長の目を大きく見開いていた。


よ、よく見れば、それなりに格好良い人だから、ちょっとドキッとしてしまう。


「く、久我……先せっ………っ」

「え…?」


彼の口から漏れた言葉に、私は逸らした視線を反射的に彼に戻した。

久我先生?


って…まさか。


「っ……ンな訳ねぇか。先生はもう…」


男の人は凄く落胆した様子で、目元を苦々しく歪めた。

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