Rainy-Rainy
千鶴がぐっと、引っ張って歩き出そうとする。


冗談じゃない。

そんな事をしていたら、遅刻どころの話じゃなくなる。


「千鶴、痛いよ!離して」

「アカン。絶対、離さへん」


嫌って…。

まるで、駄々っ子だ。


全く、どこも悪くないのに、病院に行く訳にはいかない。


「お願いだから。千鶴、この腕を離して、ね?」


振り解きたいけど、千鶴の方が力が強いし、それにまだ、体に力が上手く入らない。


「千鶴、離してやれよ。無理に引っ張ってって、どーするつもりだ?」


見兼ねた恭輔さんが、間に入ろうとしてくれる。


が、千鶴はその恭輔さんの手を払って、少し距離を取った。


「…おい」

「恭兄には関係ない」


恭輔さんをハッキリと拒絶して、千鶴は私を腕に収める。

………暑い。


「せやから、静香に触んな」

「触るなって……お前、何言って…」


恭輔さんは、眉尻を下げて、伸ばしかけた腕をさ迷わせる。


千鶴は、そのまま私を抱いた奇妙な体勢のまま、ジリジリと下がる。

犬が飼い主に対して、人形を取られないよう唸っているみたいだ。


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