NOEL(ノエル)
そして曲が終わり、その声の存在がホールから消えると、皆我に帰ったように互いの顔を見合わせ、改めてそこに起こった事がどれだけ尋常でなかったかを確認した。
「ヤバイだろ。」
「なんか、軽く疲労してるんだけど。俺。」
「あぁ。 なんかだるいな。
でも・・・気持ちいい。」
セシルは、満足そうな微笑を浮かべながら軽やかに階段を駆け下りると、舞台袖にいるエミリアにそっと近づいていった。
「大丈夫?お姉さん」
エミリアは、耳を押さえてうずくまり、ぶるぶると体を震わせている。
「あんた・・・何者よ・・・」
セシルはエミリアの目の前にしゃがんでその大きな黒い瞳を覗き込むと、
「僕、歌は好きなんだ。
誰にも負けないよ。」
そう言って無邪気な笑顔を作ってみせた。