エリートなあなた2
これほど常に音に包まれた職場で重量感ある足音を立て走るのは、もちろんただひとり。
目的地から一直線で走り抜けてやって来たのは、マネジメント課の課長席であった。
「黒岩くん忙しいところ悪い!ちょっと頼めるか!?」
それは恰幅の良い、伊藤(イトウ)試作部統括部長しかいない。ワイシャツ姿でジャケットを手にした姿は中年のオジさんだ。
「はい、分かりました」
温厚で朗らかな性格の彼が、珍しく口調からも感じ取れるほど慌てている。頷いてから素早く席を立った。
試作部内のフロアを足早に2人で抜け、やって来たエレベーターに乗り込む。静かに動き出したその室内で舌打ちをした彼。
「どうされたんです?」
「例のロボット部品のサンプルに難癖がついてなぁー。
担当者が何度も説明しても聞く耳持たずなお偉いさんがやって来た」
手にしていたジャケットを窮屈そうに羽織りながら、深い溜め息を吐き出した。
「そうでしたか」
「試作部はやーっぱり部内構成がおかしい!
分業しているようで出来ていない――集中できない環境が悪いんだ!」
まったく!と苛立ちをみせ、ここぞとばかりに悪態をついている伊藤部長。
普段は温厚だと有名な彼がここまで憤るのも珍しい。