エリートなあなた2


「ありがとう」と端的に答えると、その女性は頭を下げて部屋をあとにした。


今から10分足らず試作部へ戻ったところで何も変わらない。仕方ない、と席を立って瞑想に耽りかけたその時だった。


――「……はぁ、」と、深い溜め息がドアの向こうから聞こえて来たのは。


顔を上げて扉を見れば、また訪れる静寂。何の気なしで再び景色を眺めていると、今度はドアを叩く音が響いた。


「どうぞ」と答えてすぐこちらへ開いた扉の先に、深い溜め息の主と思われる女性が見えた。


それが絵美さんの悩みのタネである吉川さんだったから、にわかに動揺してしまう。


「こんにちは」

とはいえ億尾にも出さず、ドアノブを手にしたまま立ち尽くす彼女へ笑顔を向ける。


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