エリートなあなた2
暫くすると、ふぅ、と息を吐いた彼がわずかに口元を緩めた。ただ、彼の眼差しの鋭さは変わらない。
「……いや、個人的にはとても嬉しい話ではある。さっきの答えに行き詰っていたのも、適任者を決めかねていたためだしな。
だが黒岩くん、君は本当にそう決めてしまって良いのかね?」
十二分に意見を汲みながらも、上司としていま一度諭された。顔色が変化しないかを窺ってくるその目は、やはり厳しい。
本社行きはその後の未来が約束されたも同然――NOという答えを出す者がいないのだ。
それを蹴ろうとしている俺は、前代未聞の大バカ者となるだろう。実際に今、異動拒否を決めたのだから。
探りを入れてくる彼の目からも、その先に何を言いたいのか分かっていた。
本社の要求を拒んでしまえば、……順調だった俺の今の立場すら危うくなるぞと。