夢十夜
彼女が飛び込んだ辺りを見ていたがなかなか上がってこない。
周囲を見渡してみたが彼女の姿は見当たらない。
「まさか溺れて…?」
そう思うと同時に体が動いていた。
俺は海に飛び込み、海の中を見渡す。
夜の海は漆黒に包まれ、静まりかえっている。
何も見えない。
自分が今どこにいるかさえわからないほど闇に包まれている。

夜の海は苦手だ。

飲み込まれてしまいそうだから。
無力な自分が大きな力に飲み込まれるような錯覚に包まれるようで。

何かが揺らめいだ。
必死に目を凝らす。
白い布のようなものが揺らいでいる。

彼女のワンピース。
そう思ったのは彼女が海に落ちる際、白く靡く服が目に焼き付いていたから。
距離にして数十mだろうか。
俺は目標物目指して泳ぎだした。


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