夢十夜
波に行く手を阻まれながらも彼女に近付いていく。
彼女の白い服が次第にはっきりしていく。
彼女まであと数mのところまできた。
海面に浮かんだ彼女の身体は両手両足が垂れている。
最悪の事態が頭を過ぎり、俺は水を掻く手を早めた。

「ぉ…い。あんた。おい!」
彼女の頬を叩きながら声をかける。
彼女の頬は冷たくその表情は眠っているようだ。
「おいっ!」
不安になり声を荒げる。
「…ん。」
彼女の唇が微かに動いた。
「あんた大丈夫か!?」
その声に彼女の瞼が開き俺を見つめる。
状況が理解できないのか彼女の瞳は焦点が合っていない。
「…だ…れ?」
唇から紡がれた声は今にも消え入りそう。
「とりあえず海から上がろう」
俺は彼女を抱え泳ぎ出した。
「ちょっ…」
すると彼女がいきなり暴れ出した。
抵抗される度に水面に潜り水を飲みそうになる。
俺は彼女を助けたい一心で泳ぎ続け、溺れそうになりながらも浜辺に辿り着いた。
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