Heaven
『美羽…』
震える手であたしの髪の毛を触って、名前を呼んだの。
『陸…』
まるで蛇口を捻って、勢いよく出てくる水のように、あたしは涙を流す。弱々しくなっていく陸の体。
今でも体が覚えている。
そして最後に、陸はあたしに笑顔を見せた。
『陸?ねぇ、陸!?』
それがあたしが見た…
最後の笑顔だった─…
…─あたしと陸が出逢ったのは、あたしたちがまだ小さい頃だった。
あたしは幼稚園の年長になると共に、田舎の町から今の街に引っ越してきたのだ。
『美羽、いつまで泣いてるのよ?いつでも会えるじゃない』
あたしはお気に入りだったクマの人形をぎゅっと握りしめて、涙を小さな掌で拭く。
窓から見える大好きな町の景色。
もう、これで最後だと思うと悲しくてたまらないのだ。
この町は大好きだった。空気はおいしいし、友達は沢山いたし…
でも、もし引っ越していなかったら陸とは逢わなかったんだよね…