Heaven
次住む場所は違う県にあるらしい。
あたしは嫌で仕方がなかった。
親の都合で勝手に決められて、あたしの意見はいつも無視だから。
心地よい春の風が車内へと入ってくる。
2つ結びにした髪の毛が気持ちよさそうに揺れる。
いつの間にか、涙は乾いていた。
きっとこの風が乾かしてくれたのだろう。
『楽しみね。パパの夢だったものね!マイホーム!』
上機嫌に助手席で話す母親。
茶色く染められた髪の毛と若々しいメイクが、まだそんなに歳だと感じさせない。
『そうだな!美羽の一人部屋だってあるんだぞ!』
眼鏡をかけていて、
綺麗な二重の父親が、ミラー越しにあたしを見る。
両親は念願のマイホームが手に入り、上機嫌なのだ。
あたしは…別に普通。
住む場所なんてどこでも良かったから。
あたしは体を寝かせ、
目をゆっくりと閉じる。
この心地よい風が、
あたしに睡魔を誘ったのだ。