Heaven
この時、春が言った言葉を聞いたあたしの恋心が崩れ落ちたのは確かだ。
信じたくなかったよ…
どうして?
どうして…あたしじゃないの…?
報われない片思い。
そんなの分かってる。
ずっと前から分かってる。
でもあたしはあの冬のベランダで話した以来、頑張ってきた。
陸に見られたくて、
お洒落に気を使い、
慣れない化粧をしてきた…のに、どうしてよ…
『美羽、落ち着いて聞けよ?』
『うん、なによ?』
春は肩で呼吸をして、
真剣な瞳であたしを見つめる。
『陸と京子が付き合ってるらしい』
まさか…ね。
嘘でしょう?
春は演技が上手いんだから…騙されたりしないんだから…
嘘って…
早く嘘って言ってあたしを安心させてよ─…
『ま、またぁ…春は冗談が上手いね…』
必死に作り笑顔をして、あたしは夏晴れの空を見上げた。
入道雲の真っ白さが、
冬にベランダで最後に話した、陸の吐く息に似ていた。