Heaven


あたしは聡の気持ちを利用していたのかもしれない。
陸を忘れようとして、
聡といたのかもしれない。
今更謝っても許されない行為だと思う…

でもね?
聡がいなかったら、
あたしは一生、好きな人から逃げていたと思うの。

ごめんね、そして…

ありがとう─…。



無事、終了式が終わり、いつもより早めの帰宅をする。
午後からは部活だ。
だが一旦家に帰り、部活の用意をしに行かなければならない。

あたしは今日も一人、
いつも歩いている道を歩いていく。


やはり蝉の声に苛立ってしまう。
そして足を止めて、育った樹木を見上げる。
そこにはあたしの苛立ちの原因がいて、それに向かって、こう呟く。



『毎日元気ね。あたしにもその元気を分けてよ』


返事はもちろんない。
鳴き声はあたしの耳の中に容赦なく入ってきて、愛しい人の声すらかき消すのだ。




『…美羽ー?』


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