Heaven


聡が迎えに来る時間の5時より早くあたしは外に出た。
ただ単に理由は単純。
母親に聡の存在を知られたくないからだ。
母親は春と行くと思っている。
ややこしくなるのは避けたい。

外に出ると昼間よりは暑くなく、心地が良かった。
空は茜色になりつつあり、もう夜がやってくる、と知らせているよう。


巾着袋から鏡を取り出して最後のチェックをする。


『よし…大丈夫』


髪の毛は大丈夫みたいだ。
あたしは下を向き、初めて履く下駄をコロンと鳴らす。
何もかもが新鮮に感じる。


『美羽ー!』


すると遠くの方から声が聞こえてきた。
この声は聡。
あたしは聡の声が聞こえる方へと顔を傾ける。

少しだけ、緊張しながら。


『ごめん!!待った?』

聡は息を切らして、
両手を合わせて謝ってくる。
あたしは首を横に振り、微笑む。


あたしの浴衣姿を見た聡は、どう思っている?

少しでも印象が違うといいな…


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