Heaven


お礼を言う人がいなくなってしまった今…
このお礼の言葉は空中に浮かび、行く宛てもなく彷徨うことだろう。


涙は止まることを忘れてしまったのだろうか?
その涙は冷たくて、でもどこか温かくて…生きていると実感出来る。


リビングに静寂が広がっていく。
美月は一言も喋っていない。

すると静寂に加わる声。それは美月の声だ。


『なぁ雅。爺ちゃんってさ、すげぇ人だったよな。人を写真一枚で励ましたり、感動させたりしてさ。俺達の憧れの人だったよな…』


俺は頷くことしか出来ず、涙の流れるスピードが速くなる。



『爺ちゃんは幸せだったよな。きっと。たくさんの人の存在に触れて、だからあんな綺麗な写真が撮れると…思う…。誰にも優しくて…俺…爺ちゃんの温かい手が…大好きだった…』



途切れ途切れになる美月の声。
ふと視線をソファーに座っている美月に移すと、美月は下を向いて静かに泣いていた…。



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