Heaven
《笑の名前を呼んで、行ってきますと言って眠りたい》
昨日の爺ちゃんの言葉。そして《行ってきます》と書かれた一枚の紙。
その文字は薄く、最後の《す》という字は力尽きたのか、見えないくらい薄かった。
俺はその紙を震えながら受け取る。
爺ちゃんが残した最後の言葉は、弱くなかった。
強すぎた─…。
『婆ちゃんは…嫌じゃないの…?爺ちゃんがあっちの世界で昔の人と逢ってるの…嫌じゃ…ないの…』
喉になにかが詰まっていて、スムーズに言葉が出ない。
婆ちゃんは俺と向かい合うように座り、ぐるりと部屋に飾られてある写真を見渡した。
そして、綺麗な瞳から、綺麗な涙を流した…。
『嫌じゃないわよ。優の…夢だったもの。もう一度逢うことがね。だから私は笑顔で《行ってらっしゃい》って言うの。今頃、優は笑顔でその人を抱きしめているんでしょうね』
婆ちゃんは強い。
爺ちゃんの背中を押して、爺ちゃんの幸せを願えて。
強すぎるよ…