Heaven
ただじっと見つめるだけ。
俺は言葉を忘れてしまった人形のよう。
言葉が出なかった。
苦しくて。
『…あの…さ、俺のこと覚えてる?』
俺は自分を指差して、彼女に問いただした。
彼女は俺の質問に耳を傾けてゆっくりと視線を下から俺へとずらす。
彼女の瞳は、曇っている。
まるで見るもの全てに興味がないような瞳。
彼女の心の様子を描いているようだ。
ごくんと唾を飲み、彼女の答えを待つ。
そして彼女は小さく口を開けた。
『あたし、記憶力悪いの』
ただこれだけ冷たい口調で言って、再び視線を下へと移した。
そんな冷たい言葉を浴びせられた俺は何も言えず、ただ固まっているだけだった。
記憶力悪い?
まだ十分程度しか経っていないのに?
どういうことだよ…それ。
急に悲しくなる俺。
『どうして?』という疑問詞が俺の体中を駆け巡る。