Heaven


俺は体の動きを止めて、後ろを振り返る。
そこには息を切らした美羽がいた。


『美羽…』


『雅…あ…たし…』


今にも泣きそうな顔を浮かべる美羽。
俺は美羽の言葉を聞きたくなくて、腕を掴む手を離した。



『いい加減、俺の気持ちに気がついてくれない?俺…ずっと美羽しか見てないのに。美羽はさ、一度も俺を見てくれてねぇじゃん…。陸、陸って…もう陸はいないのに…』

次々と零れ落ちる言葉たち。
俺の勢いはさらに増す。


『美羽は俺のことなんとも思ってないんだろ?』

『違う…違うよ…雅…』


唇を噛んで、必死に涙を耐える美羽の華奢な体を抱きしめたいと思った。
もうすぐ信号が変わるという知らせの音楽が鳴り始める。


今、美羽と一緒にいても、余計なことを言ってしまいそうだ。



『俺は死ぬとき、愛している人の名前を呼びたい。それはお前の名前だ。陸もそうだったんじゃないのか?』




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