Heaven
なにが出会いの春だ。
俺の期待はどこへ消えた?
こんなことなら、期待などしなければ良かった。
ぼやけた視界のまま窓から外を見上げると、青い空に映るピンク色の花びら。
『爺ちゃん…』
桜を見るとある場所を思い出す。
それは爺ちゃんに小さい頃よく連れていかれた場所。
大きく成長した桜の木と古くなったベンチ。
爺ちゃんはこの場所を『秘密の場所』と呼ぶ。
だから俺もこう呼んでいた。
なにもない殺風景の場所だが、ここから見る景色は最高なのだ。
俺の大好きな場所。
爺ちゃんの家に行くと必ず訪れる場所。
…ひらひらと舞う桜。
ここは学校だ。
秘密の場所ではない。
そんな現実が嫌で、
だけど秘密の場所になど行けるわけでもなく、俺は入学式に向かうことにした。
会場となる体育館にいくと、もうそこには沢山の生徒たちと保護者で溢れていた。
俺は自分のクラスの席を探し、自分の席にドサッと座った。
前にはヒカルの姿はなく、美加の席を見ると美加の姿もなかった。