Heaven


理由もなく涙が出るわけがない。
理由もなく涙を流せるのは大女優ぐらいだろう。

『自分で考えろよ。それにヒカル、俺に隠してることあるんじゃねぇの?』


《は?》


苛々を抑えるため、俺は部屋中を歩き回る。
だけどこれだけじゃ苛々は落ち着いてはくれない。
わかっているのに、足が勝手に動いてしまうのだ。


『そんな無責任なヒカルにさくらは守れねぇよ』

《は?お前まじ何言ってんの?意味わかんねぇ》

ヒカルも少しずつであるが不機嫌になってきている。
そんなのヒカルの口調を聞いていれば分かること。


『お前の方が意味わかんねぇよ。お前知らねぇだろ?一つ傷を負ったらな、その傷を癒やすのに、どれだけ時間がかかるか。お前知らねぇだろ?』

ヒカルは頭がいいから、こんなこと知ってて当たり前だと思っていた。
そんな考えは甘かったのだろうか?
今のヒカルは何も分かっていない。


《俺、さくらが心配…なんだ》



『今のお前にはさくらの傷を癒せねぇよ』


人間は傷つきやすい。
その傷が癒えるのには、沢山の時間と、
沢山の愛が必要なんだ…


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