Heaven
階段を駆け下りて、自分の教室に向かう。
だが、俺の足は走るのを止めた。
それは、廊下の隅の方で、携帯を使い誰かと話している沢村先生を見てしまったからだ。
先生の表情はとても困っているよう。
『先生?』
俺は先生に近づき、先生の顔を覗き込んだ。
先生は俺に気づき、口ぱくで『おはよう』と言う。
『ごめんって。仕方ないだろ?今日は急な会議が入ったんだから…また埋め合わせするって。もうすぐ授業始まるし切るな』
先生はこう言って携帯の電源を押した。
そして困った表情をする。
『どうしたんですか?』
『…今日な、記念日なんだ。奥さんとの。でも会議が入ったんだよ。それで喧嘩してさ…』
苦笑いをして俺に事情を話す。
そうだ、先生は結婚をしているのだ。
薬指の指輪がそう語っている。
『それはしょうがないですよ。今日帰ったら謝ればいいんだし!』