Heaven


俺と先生は、教室に向かって歩いていた。


『そうだな、そうするよ』


こう言って俺に微笑む先生。
笑った笑顔がとても素敵だとこの時思った。


『先生、俺…今、泣きたいくらい辛いんだ…』


静かな廊下に響く、俺の小さな声。
先生は聞こえただろうか?
聞こえたよね。
だってこんなにも静かなのだから。


『辛いなら泣けばいい。俺は泣くことが嫌いだった。自分が負けたようで。だけど遥斗が昔教えてくれたんだ』


先生は窓の方へと歩み寄り、窓を開けた。
その瞬間、心地良い風が入ってきて、濁った空気を変えていく。


『遥斗が…?』


『そう。遥斗が…泣きたい時は空を見て泣けって言ったんだ。そうすると空からのご褒美が貰えるって…』


『空を…』


『そう教えてもらったら、泣くことなんか恥ずかしくなくなったんだ』




美羽はこのことを知っているだろうか?
もし知らないのなら教えてあげたい。


泣くときは、空を…。



でも空には美羽の心に眠る、他の住人がいる。


だから美羽は空を見上げながら泣くことは出来ないんだ─…



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