声
坂道
坂道を娘は懸命に荷車を曳いていました。険しい登りでなかなか進みません。ふっと軽くなり荷車は登りだしました。「やおいかんのぅ、俺が押したゃるけぇ」野太い声がしましたが、振り返っても積み荷の影で誰だかはわかりません。「すみません、助かります」娘は荷車の後部に御礼を言うと、足を踏み出しました。坂を登り切り、もう一度御礼を言おうと、娘は荷車の後ろに回り込みました。「きゃああ」娘は腰を抜かしてしまいました。丸太のような腕、炎のような眼、鬼でした。「怖がらんでええけぇ、おめが難儀しちょったけぇ、可哀相やったけぇ」鬼は、すまんすまんと言いながら山に隠れていきました。