思い出なんていらない。

俺はバイクを海岸線に止めてシートに腰掛けて海を眺めてたんだ。

そしたら、彼女が1人で砂浜を歩いているのが見えて、

ちょうど俺の目の前で止まって彼女も海を眺めだしたんだ。


俺の目線は最初は海を眺めてたんだけど

いつの間にか彼女に移っていって

なんか分からないけど、無性に彼女の事が気になって仕方がなかった。


俺は声をかけに彼女の近くまで行った。

すると、海を眺めては涙を流す彼女。


まるで波が押しては引き返すように彼女の涙も拭いては涙を流し、

それを繰り返す。


俺は、だまって彼女の隣に行き一緒に海を眺める。

言葉をかけるわけでもなく、ただ黙って隣に立ち尽くす。

すると、俺に気づき彼女が振り返る。

「あなた・・・誰?」と聞く。

「あ、俺?井上 亮です。君は」と聞く

「橋本 加奈・・・・」


この一言だけ呟くと、彼女はゆっくりと歩き出した。


俺はヒバイクの置いてある場所へ戻りバイクを押して歩く。

彼女のスピードと合わせて歩いていく。


俺と彼女が歩いている場所からは少し距離があったので

少し大きな声で彼女に話しかけた。

「ねえ!どこ行くの?」

「別に決めてない・・・」と答える彼女。


俺は彼女にすごく興味を持った。

そして彼女に言ったんだ。


「あのさ~俺バイクなんだけど、後ろ・・・乗らない?」

て聞いてみたんだ。

すると彼女は思いもかけない言葉を言ったんだ。

「私。バイク・・嫌いなの・・・・」

え・・・!バイクが嫌い?なんで?・・・そう思った。

俺はその場にバイクを止めて彼女の元へと駆け寄る。

「バイクが嫌いって、なんかあったの?」


「・・・私の彼がバイクに轢かれて死んだの・・・

でもそのバイクは止まらないでそのまま走り去っていったわ

そして、そのまま彼は還らない人になってしまった。

バイクが彼の全てを奪ったの・・・奪っていったのよ。

だから私はバイクが嫌い・・・」


俺はそんな彼女に何も返す言葉がなかった。何も言えなかった。


でも彼女は言ったんだ。
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