明日への扉
「おはよっ! 希ー、今日も見てんの?」



教室に入る前に、加奈が寄って来た。



「おはよ。 …へへっ。」




最近の私の日課。



少し早く来て、2階の廊下から、真下にある自転車置き場を眺める。



それは、先輩が来るのを見るため。



毎朝、爽やかな笑顔で友達と話す先輩を見るだけで、幸せな気分になった。






「そんなに好きならさー、告白しちゃえば?」



放課後、部活に向かう途中で、加奈が切り出す。



「うちのクラスでも、話題になってるよー。『隣のクラスの女子は、誰を見てるんだ』って。」



美穂が、私の顔を覗きこむ。




「えっ!そんな事言われてんの? やだ、困ったな… でもさ、私は見てるだけでいいんだ。 先輩と付き合いたいとか、そこまで考えてないし。」




「え… 希、気持ち切り替えたんじゃないの?」



ズキン…



美穂の言葉が、胸に刺さった。




自転車置き場を見てると、篤史も目に入る。



先輩を見ると、幸せな気分になる。



篤史を見ると、苦しくなる。



返す言葉が見つからず、曖昧に笑うことしか出来なかった。




< 163 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop