明日への扉
それから冬になっても、先輩を見つめるだけだった。



みんなは、『バレンタインに渡せ!』なんて言うけど、このホンワカした気持ちだけで、充分だった。




今年は、何も作らなかった。




そして迎えたバレンタイン当日。








「じゃあ、今日の後片付けは、柴田と石川でヨロシク!」




…えっ?



書道の先生の言葉に、動きが止まる。




選択授業の書道。



それがアイツと同じ教室に居られる、唯一の時間。



でも教室では、話すどころか近寄った事もなかった。







習字の筆を洗い終えると、水の冷たさで手が真っ赤になる。




「いったっ…」



指先の感覚がなくなって、息を吹き掛ける。






「ほらっ!」



声のする方を見ると、篤史が何かを私に投げた。




緩やかな放物線を描いて私に届いたのは



カイロ。





「…ありがと。」




なぜか中3の時を思い出し、ギュッと握りしめた。







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