ベイスボール
過去と現在
「おーい!桐原!3番テーブルに枝豆持ってけ!!」


「はい!!」


桐原拓海。元プロ野球。高校時代は甲子園優勝投手。大学では通算38勝。ドラフト1位。新人王獲得。


そんな経歴を持った男が今では居酒屋のアルバイトをしている。


世間は彼の輝かしい人生を忘れてしまった。


そして桐原自身も忘れようとしている。


桐原は八百長の疑いでプロ野球界を追放された。それが原因で自らの家庭にも亀裂が入り、離婚した。


後に疑いは晴れたものの彼に残されたのは多額の借金だった。


朝5時になると桐原は2つ目のアルバイトに向かう。


俗に言う「ドカタ」肉体労働だ。


以前住んでいたマンションの家賃は30万円。


今では風呂無し、トイレ共同の3万円。


どん底に落ちた桐原は徐々に生きる気力を失っていた。


(あの電車に轢かれたらどんなに楽になるだろう・・)


桐原はフラつきながらホームの真ん前に立った。

(俺は‥俺は‥)


その時、1人の老人が桐原の肩を掴んだ。


「なっ‥何だよ!?」


「ほっほっほっ。やはり桐原だったか。」


桐原の肩を掴んだのは高校時代の恩師、綿貫であった。
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