ベイスボール
綿貫は桐原を連れて近くの寿司屋に入った。


「桐原。別にホームの真ん前に立つのは構わんが、死ぬのはいかんぞ。」

桐原は俯きながら箸でガリをいじっている。


「また野球をしてみたらどうじゃ?まだ31やろ?」


俯いていた桐原が顔を上げた。


「自分は‥野球が嫌いです‥。」


「ほっほっほっ。あんな事があっては仕方なかろうな。」


綿貫は大声で笑った。


桐原の表情は仏頂面に変わり、鮪の握り寿司を一口で頬張り再び下を向いた。


重苦しい空気の中、時間が過ぎて行く。


すると綿貫が口を開いた。


「良い仕事を紹介してやる。月45万でどうじゃ?」


桐原はピクッと反応して綿貫の方を向いた。


「のぅ?悪くないだろ。わしはもう65歳、お前と違うて蓄えも年金もある。だから仕事を譲ってやるわ‥。」


「良いんですか‥?」


「構わんよ。孫と遊ぶ時間も出来るしな。」


桐原と綿貫は寿司屋を出て駅で別れた。


帰りの電車の中、ホロ酔いの桐原の脳裏に綿貫の言葉が浮かぶ。


(いいか?この職業に就くには3つの条件がある。1つ、途中で投げ出さない事。2つ、職場では思いやりの心を持つ事。3つ、‥‥‥)


(3は何だったかな‥。てか、何の仕事だよ‥?まぁ‥いいか‥。)


桐原は手摺りにもたれ軽い眠りに就いた。


そして月日は流れ4月になった。


桐原は綿貫に渡されたメモを頼りに新しい職場に向かった。
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