今川焼
翌日、ケロッとした顔で俺の視界に佇む恵の姿を見ても腑に落ちなかった。
食あたりや食中毒の類いで水に流せる程、そう簡単に昨日のいくつかの不可解な点を拭い去ることはできず…
まだどこか滲み出してきそうな一点のシミを見つめているようだった。
「昨日のお前ヤバかったからね。マジで頭おかしくなったんかと思ったし。」
「そう?なんか内蔵が締めつけられるように痛かったから、あんまり昨日の記憶がないんだよねぇ。」
2人の会話は過ぎ去ったことを語るように前向きで、それと反して理由なく上の空になってしまう俺には居心地の悪い空間だった。
何がこうも引っ掛かるのだろう…
気がつくと、俺の足は自然とそこに向かっていた。
「いらっしゃい。」
何より驚いたのは病み上がりと見受けられる茂さんが店番をしてることだった。
「茂さん…」
「おーう、久しぶりだな。」
「久しぶり…っていうか、もう腰は大丈夫なの?」
「大丈夫じゃねえけどよ。いつまでも店を空けてらんねえからな。」
「息子さんがいるじゃん。」
「まあな。でもアイツも高校生だからよ、学校何日も休ませて働かせるわけにはいかねえだろ。」
「…高校生なんだ。」
「たぶん一緒の高校だぞ。」
「俺と?」
「そんな制服だった気がする。確か…」
「息子の高校の制服くらい覚えなよ。」
意外ではあった。
この間店に立ち寄った時、見た感じでは俺と変わらない年相応の身なりではあった。
でも物腰の軽さや、大人びた対応が学生であることを連想させなかった。
「それより、お前まだ授業だろ。」
「サボった。」
「そんなに俺の焼く今川焼が恋しかったんか?」
「知ってるだろ、俺が甘いのダメなの。」
「えっ…そうだっけ?」
「そうだよ。」
「じゃあ何しに来たんだよ。」
本当に何しに来たんだろう…
例えば茂さんではなく息子が店にいたとして、俺は何を話してただろうか。
世間話?
それとも…
「そいえばウチの妹が息子さんの焼いた今川焼食ってから腹壊したんだよね。」
つい、ポロッと口が弾んだ。