今川焼
 
「別に文句言いに来たんじゃなくて、たまたま店の前を通りかかっただけで…」

「もういいって、わかったから。」

「…そっか。」

「…………」

「名前聞いていい?」

「ああ、よしもと。」


吉本と名乗ったこの男は、意外にも話してみると至って普通の高校生と何ら変わりない印象を受けた。

でも、とごか…




…ミステリアスな…




…何を考えているか分からない。

大人びた雰囲気を醸し出しているのは、そのせいかもしれない。


「店、継ぐの?」

「うーん…考え中。」

「何か将来的な目的が?」

「別に、まだないかな。何もやることなかったら継ぐんだろうな。」

「テキトーですな。」

「お宅さんは?」


…お宅さんて…


「俺?俺は………」

「無いのかよ。」

「今の若者に漠然とした未来図を語れってのがムリな話で…」

「ハハハ、それ言えてるかも。」


なんか…




打ち解けちゃった感じ?




…敵視というよりは親近感。

いつしかそんなものが俺の中に芽生え始めていた。


「ホント言うとさ…実は君が物凄く腹黒い奴で、町中の人間を一掃するために今川焼に何か混入させたんじゃねえかって思ってたんだよね。」

「そんな危険人物に見えた?」

「いや、話してみたら良識ある若者でホッとしたよ。」


詭弁ではなく、本心が口に出た。




「ここだけど…ホントに謝ってく?」


家の前に着き、あらためて尋ねた。


「結局来ちゃったしね。」

「まあそうだけど…」

「それに…心当たりないワケでもないし。謝っとこうかな。」

「えっ!?」

「冗談だよ。」


その後、こうなることは何となく察しはついていたものの…




「きゃあーっ(はぁと」




吉本は謝罪の言葉を口にする間もなく、むしろVIP待遇を受けていた。
 
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