今川焼
 
我が家が突発的に寿司屋に出前を頼んだのは確か…

俺の記憶が正しければ小学6年生の俺の誕生日が最後だろう。


その経緯というのも涙ぐましいもので、単純に家族揃って俺の誕生日を忘れていたという。

そう考えると正式な祝賀会に寿司が並んだのは昨日が初めて…




…何故か吉本のいた昨日が…




それほどまでに吉本人気は目まぐるしかったのか。


我が家のアイドル…

いや最早町内のマスコット的存在と言っても過言ではない程だ。


「いっぱい食べてね。」

「いっぱいって…」


俺の目の前にある寿司を差し置いて母親は平然と言った。


「何?どうしたの?」

「俺のだけ…トロがない。」

「あらホント?」

「エビがない。イカがない。大好物のカニすらない。」

「あるじゃない巻寿司が。それカニサラダ巻なのよ。」

「ていうか何で俺だけ助六?」




結局俺の寿司だけ助六であった真相は解明されぬまま、この日の食卓はお開きとなった。

帰る頃には吉本は俺よりも家族に溶け込んでいた。


「申し訳ございません。」と言う筈だった吉本の口から「ごちそうさまでした。」が出た時は正直背中から蹴り飛ばしてやりたかった。

でも、この日がきっかけで…




吉本に対して友情めいたものが芽生えたのを感じた。
 
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