今川焼
「ちょっといい…?」
珍しく涼が俺の前に姿を見せた。
思えば涼からコンタクトを図ってくるのは初めてじゃないだろうか。
「何かあった?」
「もう帰る?」
「うん。いま帰ろうとしてたとこ。」
「じゃあ一緒に行こ…」
下駄箱に向かうまでの間、涼は何かを話す雰囲気でもなさそうだった。
絶対あり得ないことだが、もしかしたら涼は俺のことが好きなのでは…
…なんて妄想をしつつ…
…いそいそと靴を履く。
満更でもない俺が頭の中にいたがスルーしよう。
校門を出て交差点を曲がったところで、ようやく涼は口を開いた。
「あのさ、質問していい?」
「何だよ。」
「いま何か欲しい物ある?」
この質問はガチだろ。
先走る気持ちも無理はない、もうすぐそこまで俺の誕生日が迫っていたからだ。
「欲しい物って…急に言われてもなぁ。」
「何でもいいから。男が欲しい物の例を挙げてみてよ。」
微妙にはぐらかして尋ねる物言いが可愛く思えた。
「男の欲しいもんって言ったら…そうだなぁ。まず女だろ。」
「考えて物を言え。」
「それから地位と名誉…は金があれば不要なものだな。あとはバナナ。」
「バナナ?」
「黒い斑点がちょうどいいくらいに浮きあがった状態のバナナのストックが常に欲しい。ポーケットも叩けばバナナが一房、もひとつ叩けばバナナが二房…みたいなね。」
敢えて無理な要求をしてみた。
怒る涼の反応が見たかったのだろう。
「そんなんでいいの?」
「えっ、どういう意味?」
「それなら私が学校に毎日バナナ持ってきてあげるね。その代わり休むなよ!」
ヤバい…
…この反応は予測してなかった…
…不覚にも萌えた。