今川焼
翌朝、教室に着くと今この世で最も不愉快な光景を見せられた。
「…お前もかよ。」
昨夜とまるで同じ光景。
デカい口を開いて今川焼を頬張る純(ジュン)が、昨夜の妹とダブる。
「何だよ、欲しいなら欲しいって言えよ。ったく、お前は素直じゃないねえ…」
「誰がいるか!」
こんなにも俺がムキになっているのは…
何も甘い物が嫌いなだけじゃない。
…それを求める者達の不純な動機が許せなかった。
「そんなに美味いか、ソレ。」
「まあな。俺っていうより彼女がハマっちゃってさぁ。」
「…だと思った。」
「まあ最初はムカついたけどな。」
そう、気に入らないのはそこだった。
確かに純のように味を評価して納得のいく査定を出す者もいる。
しかし大抵の客は違う。
…まず、何故この『おうばんぶるまい』という老舗の今川焼屋が今になって異様な客入りを見せているのかを説明しよう。
普段は茂(シゲ)さんという初老の3代目が営んでいた今川焼屋。
昔から町の甘味処として親しまれていた経緯はあるが、客層は年寄りが殆ど。
それは中高生が寄り付くような繁華街ではなく、場末の錆びれたアーケード街に位置するという背景もある。
しかし先日、茂さんが病に倒れた。
その茂さんの跡取り息子である次期4代目が、その翌日から店を引き継いでいる。
…ここまで言えば察しはつくだろう。
「それで、どうだった?」
「悔しいが…イケメン通り越して美男子の領域だ。」
「でも茂さんの息子だぞ?」
「母方の遺伝子だろう。茂さんには似ても似つかねえ面構えだった。」
「…ますます気に入らねえな。」
「まあな。でも味は申し分なかったぜ。」
そんな純の言葉が霞む程…
奴は今、この町一番の人気者だった。