今川焼
 
「お前こんなことして正気かよっ」

と、5階くらいまで昇り進めた俺が言えた台詞ではない。


「この方がスリルがあっていいだろ」

「問題なのは趣向じゃなくて手法だ!」

「俺、屋上が好きなんだよ」

「聞いてねえよ!」

「何ていうか空に手が届きそうな気がするんだよな」

「あのなぁ…今からでも遅くない。引き返した方が身(俺)のためだぞ」

「今さら引き返せる?」

嫌味にもそれは正しかった。


一瞬だけ視界にとどめた地表は、幼少期に短冊にNASAへの就職祈願をした俺の人生設計すらも覆した。

空に星が浮かぶように、大地に根を張るのが人間の本質でして……




いやもう遅いんだけどね




7階の小窓の鉄枠に足を掛けた時、見上げたそこに義心の姿はなかった。

どうやら俺の未来は奴に託されたようだ。




……落ちたら祟ってやる。
 
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