今川焼
夕暮れを掠める雲に手が届きそうだった。
見降ろした世界はちっぽけで、先程まで俺が生きていた場所は、時は……
……遥か昔のことのようで……
……それもこれも死の危機に直面したことによるものだろう。
「お前はぁ何のはぁ…」
「落ち着けよ」
「はぁ…はぁ……」
「そんなに疲れたか?」
お前は何で素面なんだよ。
「……でも、来て良かったな」
「どこをどう見ればそう思うんだ」
「まあ座れって」
途切れる息は冷気に溶け混じる。
吹き抜ける風に、いつしか呼吸など忘れて吸い込まれていくようで…
という表現は大袈裟かもしれないが、俺にとっては異空間。
夕闇をバックに佇む様がお似合いな義心は、その景色に馴染んで見えた。
「いつも来るのか?」
「たまにね」
「何しに…って聞くのも野暮か」
「どうしようもない時はここに来て、どうしようか考えてるうちに日が暮れて……」
つまり逃避行というワケか。
「な、つまんねえだろ」
「そうでもないかな……」
否定はしなかった。
それだけの世界が、ここにはあった。